私たちの研究室では、計測とモデリングによる現象理解を目指しています。線虫、計測(X線・蛍光)、データ解析を融合したアプローチをとっています。細胞内を可視化する蛍光イメージング、タンパク質分子の動きを捉えるX線計測法を駆使して、生命現象を分子、細胞、そして個体レベルで観察し、それらを統合的に理解することを目指しています。最近は、バイオロジーだけでなく、材料計測などにも取り組み、分子の運動(動き)を軸として、マクロな現象や機能の物理化学的な(微視スケール)性質を明らかにしたいと考えています。具体的なテーマを以下紹介します。
氷結合タンパク質(Ice-Binding Protein: IBP)は、氷晶成長を抑制するユニークな機能をもちます。これまで私は、魚や菌類由来のIBP遺伝子を線虫C.エレガンスに導入し、凍結環境における耐性獲得と、2〜4℃程度における低温耐性の改善を見出しました(Kuramochi et al., Sci. Rep., 2019)。IBPは、個体生物体内でも氷晶成長阻害と細胞保護という2つの機能を発揮できることがわかりました。これらの作用は、多細胞生物の凍結保存においても効果的に機能すると考えられます。そこで現在は、低温環境下における生体イメージングによる線虫細胞の活性評価、X線回折法によるAFP氷晶制御のナノスケール測定を行っています。凍結保存法の最適条件を検討し、個体生物まるごとの凍結保存技術を目指します。
回折X線ブリンキング法は、1兆分の1メートルという非常に小さな物質の動きを測定できます。2018年に考案(Sekiguchi et al., Sci. Rep., 2018)され、生体分子だけでなく、無機物質や高分子、ソフトクリスタルなど、材料物質の計測ができるようになりました(Kuramochi et al., Sci. Rep., 2021; Arai et al., Struct. Dynamics, 2021)。材料構造と機能の関係を明らかにすることで、最適な物質材料創成に貢献していきます。
意思決定や行動選択を制御する複雑な脳神経機構を調べています。単純な神経系を持つモデル生物「線虫」を使って、行動観察や最新のイメージング技術を駆使して分子レベルの機能制御を調べています。これまでに味覚神経による行動選択の情報処理機構を明らかにしました(Kuramochi & Doi, Front. Mol. Neurosci., 2019)。さらに数理解析やシミュレーションを組み合わせることで、神経発火特性や神経回路というシステムがどう働いて特定の行動を創発するか調べています(Kuramochi & Doi, PLOS ONE, 2017; Kuramochi & Iwasaki, LNCS, 2010)。
・ソフトクリスタルの結晶動態計測と機能相関
・生きた個体生物を用いた細胞内結晶エンジニアリング
・凝集タンパク質および分子夾雑場のX線1分子観察
・テラヘルツ光照射による非熱的効果:初期胚における細胞分裂への作用検証
・X線忌避行動の分子メカニズム
・線虫の相分離研究
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